忌まわしき夫婦

探偵をしていると
おかしな偶然に遭遇することがある。

これは僕がまだ大手探偵社にいた頃の話だ。

ある日、とある女性の依頼者が事務所にやって来た。旦那さんの不倫調査という、何の変哲もない依頼だった。

仮にこの依頼者さんの名前を「吉田」さんとしよう。吉田さんは不倫の証拠を手に入れて、旦那さんを有責配偶者にして有利な離婚がしたいとの事。そしてこの吉田さん、なんと自分自身にも愛人がいるらしく、旦那さんと離婚をしてから愛人と再婚がしたいそうな。いやはや、なんともたくましい方である。合理主義の依頼者さんだと話が早い、その日の内に調査契約となった。

 

———数日後

とある男性の依頼者が事務所にやって来た。奥さんの不倫調査という、何の変哲もない依頼だった。

不倫の証拠を手に入れて、奥さんを有責配偶者にして有利な離婚がしたいとの事。そして彼もまた自分自身にも愛人がいるらしく、奥さんと離婚をしてから愛人と再婚がしたいそうな。いやはや、こんな依頼ばかりで全く世も末である。その日の内に調査契約となり、調査利用目的確認書に必要事項の記入をしてもらう。ちなみに調査利用目的確認書には「住所」と「名前」を署名をしてもらう必要がある。

   

   

…ん?この住所…?

まさか名前は‥??

 

 

   

 

  

   

「吉田」 !!!!!

  

   

  

    

こともあろうにこの吉田夫妻、なんとそれぞれがうちの探偵社へ依頼をしにきてしまったのだ!

まさに運命のいたずらである。

僕の横にいるカウンセラーも顔色が変わった。この事態に気付いたのだろう。目線を合せ、お互いに小さく頷いた。

そう。探偵には守秘義務があるのだ。夫婦といえど別々の契約の為、その旨を明かす訳にはいかないのである。

全力で平静を装い、契約は無事に終わった。

 

この「吉田様」案件は、当時の探偵社内でも非常に波紋を呼んだ。調査時期も被っていたし、担当する相談員や調査員の間でも情報管理が徹底された。業界最大手の探偵社とはいえ、双方が依頼者でもあり調査対象者でもあるという事態は前代未聞であった。

しかしながら調査自体は非常にスムーズだった。なんせこちらはそれぞれの相手の情報・手の内を知っているわけだから、当然である。無事に双方の不倫の証拠を撮るとこができた。そして最後まで守秘義務を守った上で、調査報告まで完了したのである。

各々、笑顔で証拠を持ち帰った吉田夫妻
各々、証拠をどのタイミングで使用するかは知らないが、最終的には双方が血みどろになるのだろう。