探偵日記

僕は日記を書いている。
それも高校生の時から、ほぼ毎日欠かさずに、紙の日記帳に書いている。

何を書いているのかというと、その日に起こった出来事はもちろんのこと、目標や決意、その日に自分がどんな感情を抱いたかを自問自答しながら整理するように書き記していることが多い。他には印象に残っている誰かの言葉や、どうでもいいような下らない事なども書いたりする。誰にも見せるつもりがないにも関わらず、ふざけて読者を楽しませる事を意識した文体で書かれていたり、不意打ちで未来の自分に向けてのメッセージが書いてあったりもするから油断ができないし、ちょっと気持ち悪い。

なぜ日記を書き始めたのかは今となってはあまり覚えていないが、きっと何かの気まぐれだろう。
だがこの仕事をするようになってみて、学生時代に日記を書き続けたことが、探偵をしていく上で役に立つ資質を培ってくれたのだと思う。

一日の終わりに、その日を振り返る時間を設けることで、思考を深め、自分と対話をする。自分とのタイマンの時間である。そこには誰もいない訳だから、世間体を気にしたり見栄を張る必要は無い。しっかりと心の深くで自分と向き合ってこそ、真意が頭をもたげるのだ。
すると感情のコントロールをしやすくなったり、冴えた判断ができるようになったり、客観性を持つことができる。そして何より、自分をしっかり理解することで、自分に嘘をつくことがなくなる。

これが結構重要で、探偵というのは、嘘をつくのが上手くないといけない。自分という人間を乗りこなす事のできていない人がつく嘘は薄っぺらい。そう、あの日の帰り道の僕の様にね…(いつものお薬出しておきますね)

 

あと日記は読み返すと単純に面白い。

音楽は記憶のポストイットとはよく聞くが、書いた本人に限定するのであれば、日記こそが最強の記憶のポストイットとなるはずだ。
9年前の今日、自分が何をして、どんな事を考えていて、何に夢中になっていて、誰と会って、何に笑っていたのかを、正確に覚えている人はいないと思う。けれど僕は自分の日記を見返せば、全てが分かるようになっている。これってすごい事だと思いませんか?

僕は30代なのだが、歳を取るのがすごく嫌だ。老けたくないし、まだ恋愛もしていたい。
だが日記を見返すと、昔の自分の悩みが書いてある。当時の僕にとっては死活問題であったような悩みも、歳を取った今の自分からみれば「こんな事で悩んでいたのか」と可愛らしく見えるものである。そう感じれるのであれば、歳を取るのも悪くないと思わせてくれる。

日記を書くのを10年継続した者は、何かを成す人である。
日記を書くのを20年継続した者は、既に何かを成した人である。

どこかで聞いた格言だ。たしか高校2年生の頃から書き始めたわけだから、もうとっくに10年は経っている。これによれば、僕は何かを成す人としての素質はあるようだ。あと数年続けて、何か面白い事が成せていれば嬉しい。

探偵になってからは調査内容も書くようになった。もちろん具体的な対象者の個人情報などは残していないが、実際に調査に入った自分が読み返せば、全て思い出すことができる。
おそらくこの日記を出版すれば、「アンネの日記か 小沢の日記か」と言われるまでに各方面から絶賛の嵐だ。(いつものお薬出しておきますね)