10年近く前の話だ。僕がまだ新人探偵だった頃。
調査をしていた案件の対象者は、とあるラウンジ(キャバ)嬢であった。
依頼者である奥さんの旦那と不倫をしていた。
既に、ラブホテルでの不倫映像の撮影には成功し、彼女の勤務先の店舗までも特定できていた。しかし最後の詰めであるところの、彼女の自宅のマンションの号室の割り出しが どうしてもできなくて悩んでいた。
集合住宅の場合の号室の特定は結構重要で、証拠としての信憑性が増すし、裁判で内容証明郵便を送る際にも必要になる。
尾行によって特定できた彼女の住んでいるマンションは、港区にある某タワーマンションだった。20階建ての大きな建物でセキュリティは万全。一緒に中に入れば不法侵入になってしまうのでコンプライアンス的にアウト。もちろん外から玄関のドアを見ることもできない。何号室に住んでいるかの割り出しは困難を極めた。
困ったなぁ…
事務所で悩んでいたところ、先輩のMさんがやってきた。彼は関西出身の凄腕の探偵であり、ちょっといい加減だがどこか憎めない人物である。
「小沢君、例のラウンジ嬢の案件、手こずってるみたいやん?」
「そうなんですよ、不貞は撮れて宅割りまでしたんですが、号室ちょっと厳しそうです…」
「俺なら、号室割れるで」
「え、マジですか!?」
「まかせとき」
そしてなんと、対象者である優子(仮名)の働いてるラウンジに内定調査をすると言いだしたのだ。まさか本人から直接聞き出すつもりとは、なんて大胆なんだ…!
その日の夜、先輩についていき、優子の働いているラウンジに入店した。
先輩は優子を指名。
僕はドキドキしていた。
先輩 / 先輩についた優子 / 小沢 / 小沢についた女子 の4人で話を始めた。
もちろん探偵という職業は明かさずに、普通のサラリーマンの先輩と後輩で、たまたま通りがかった一見さんという設定だ。
さすがは先輩、女の子を楽しませるしゃべりが上手く、どんどん2人と打ち解けて和んでいく。僕もトークに自信がないわけではない、負けじと場を盛り上げる。
優子「Mさんも小沢くんもおもしろ~い、楽しくてもうどっちがお客さんだか分からないや(笑)」
よし、ひとまずは良い感じだ。もはや僕たちが探偵だとは夢にも思っていまい。しかしどうやって話題を自宅にもっていって、かつ怪しまれる事無く号室を聞き出すんだ…?
ここで先輩が仕掛けた。
先輩「そういば俺、占いできるんや」
女子「そうなんだ。生年月日とかで?手相とかで?」
先輩「ちがうちがう。そんな在り来たりな占いじゃなくてな、俺が独自に編み出した、めちゃくちゃ的中率の高い特殊な占いや」
優子「え~どんな占いなの??」
先輩「号室占いや」
僕は震えた なんだこの人は 天才か。笑
女子「え~なにそれおもしろい(笑)」
先輩「でもこれが当たるんや、試しに言ってみ?」
女子「あたし302号室だけど」
先輩「あぁ~302号室ね、はいはい…302号室に住んでる女の子ってのはな…」
適当なことを言うかと思いきや、先程までの会話の中での彼女の性格や情報を踏まえた上での ホットリーディングを用いた内容で、わりとそれっぽい占いになっているではないか。恐るべし号室占い…!
女子「すご~い!結構当たってるかも!」
先輩「せやろ?」
優子「えじゃあ私も占って!私は803号室!」
一瞬だけ先輩と僕の目が合った。
勝った…
それからは、ひとしきり話をしてから、僕らは店を後にした。
こうして依頼者には、全ての情報と証拠をそろえて調査報告をすることができたのだ。このMさんの必殺「号室占い」は探偵仲間の間でも、いまだに軽い伝説となっている。
とはいえ、占いの最後に『近いうちに、自分のした事に対しての天罰がくだる可能性が高いから要注意やで』というブラックユーモアを添えていたあたり、この占いは案外当たっているのかもしれない。