探偵と調査対象者との禁断の恋

これは全部フィクションなんだけど
僕が調査対象者と禁断の恋をしてしまった話をしよう。

あれはもう随分と昔、僕が駆け出しの探偵だった頃…

僕と上司の目の前に座っている依頼者がこう言った。

「うちの娘を尾行して欲しいんです」

なんでも、大学入学を機に上京して一人暮らしを始めた娘さんの素行が気になってしょうがないらしい。ダンディな雰囲気のお父様だった。

「できれば、娘の身に何か危険があった場合は、助けてあげて欲しいのです。常識的な範囲で構いませんので…」

「探偵はボディーガードではありませんので身辺警護はちょっと…それに、もう18歳にもなる年頃の娘の行動を親が詮索するのもどうかと…」という台詞を僕は飲み込んだ。

「承知しました」と上司。

承知したのかよ。

調査委任契約書を交わし、二人で依頼者のお見送りをした。
そして僕の隣で上司のMさんがニヤニヤしながら言った。

「さぁ小沢くん、来週から君は大学生や」

対象者は18歳の女の子。名前は美樹ちゃん(仮名)だ。長野県上田市にある田舎町から東京に上京してきたばかりの大学1年生。大学近くのアパートに一人暮らしをしている。いわゆるおのぼりさんで、服装も地味で大きな眼鏡をしている。通っているのは そこそこ大きな大学で、外部の人間である僕でも容易に出入りが可能だった。彼女が取っている授業は大人数用の教室が多かったので、ちゃっかりと一緒の教室で講義を聞いていた。まさか2×歳にもなって、また大学に通うことになるとは。僕も身なりを大学生らしくして、クラッチバックとかを持ち歩いて、もう完全に大学生に溶け込んでいた(と思いたい)。

対象者の人となりというのは、尾行をしながら観察していると、にじみ出てくるものである。彼女は、バスでもお年寄りに席を譲る優しい子で、目線はよく甘いものに向けられていてスイーツに目がなく、所作も丁寧で育ちの良さが垣間見れる女の子だった。

こうも毎日、朝に家を出てから帰宅するまでの尾行を続けていると、一方的に親近感を覚えてくるものである。彼女に対して親心というか、いつしか妹を見守るような感覚を抱いていた。

大学の外では、ローリーズファームで1時間かけて試着をして服を選んだり、美容院から出てくると  うっすら髪に茶色のカラーが入っていたり、眼鏡がコンタクトレンズになったりと、田舎町の出身である彼女が、大学生デビューで少しづつあか抜けていく様子を影ながら尾行・監視していた。調査開始から2週間が経っていた。

そんなある日、事件は起きた。
もはや自分が探偵だということを半分忘れながら学食でクリームメンチ定食を食べていた時だ、彼女が急に僕の隣の席にやって来て、なんと話しかけてきたのだ!

「あの、授業よく被ってますよね…?」

マズい…
流石に連日の調査で彼女の視界に入り過ぎてしまっていたか…?

探偵は原則、調査対象者との直接の接触は避けるものだが、不可抗力で会話をしてしまう事は極稀にある。その際は自分が探偵である事は絶対に隠さなければならない。だから、ここはなんとか自然な対応で誤魔化しながら やり過ごすしかないと僕は思った。

「あーたしかに君、見覚えあるかも。1年生?」

「はい!美樹っていいます!」

「僕は小沢、経済学部の3年」

「じゃあ先輩ですね!あの…私まだ大学でお友達があまり居ないんです。だからもしよかったらお友達になってくれませんか?色々と教えて欲しいです、履修とかサークルとか」

「い、いいよ…」

「やった!よろしくお願いします」

これはとんでもないことになってしまった。
すぐに上司へ電話して事態の報告をした。

「ははは、小沢君やるやん!対象者と友達になっちゃう探偵なんて滅多におらんよ?」

「やめてください、何とかやり過ごせましたけどマジで冷や汗ものでしたよ…交代要員呼べます?」

「う~ん…今うちの班の案件立て込んどるからなぁ…小沢君で続行や」

「いやいや無理ですよ!認知されちゃってるし!」

「まぁ不貞調査だったらあかんけど、小沢君のは素行調査やし、まぁ歳も近いし友達なら探偵業法的にも大丈夫やろ」

「いやそれはそうかもしれないですけど…面が割れているので大学の外での尾行の難易度はめっちゃ上がりますよ…」

「小沢君ならイケるで。それよか彼女の恋人になればええやん。そしたら24時間の監視が可能やw」

「ちょwww」

こうして僕は彼女の調査を続行することになった。学内では時々彼女と一緒に授業を受けたり、そのまま学食でご飯を食べたりした。当時は調査対象者と直接話す経験なんてあまりなかったので内心ドキドキしていたが、身を隠す必要がないというのは、なかなかどうして悪くないものだった。

「先輩ってなんか不思議な雰囲気な人ですよね、妙に落ち着いてるっていうか…あと観察眼鋭いですよね!おしゃべりしてても色々と見透かされてる感じ」

…そりゃそうだ。
依頼者からの情報や大学の外での行動も全て知っているのだから…

「そんなことないよ、美樹ちゃんが単純なだけだよ」

「またそうやって!ひどい!」

「ごめんごめん」

「どうせ私は単純ですよ~」

「じゃこのマウントレーニアあげるから許してよ、好きでしょ?笑」

「好きです!えーいいんですか?許します!」

美樹ちゃんは美人とは言えないまでも、いつも明るく可愛らしい笑顔で、すぐに懐いてきて愛嬌のある子だった。次第に僕は学内で彼女に会うのが楽しみになっていた。失われた青春を取り戻したような気持ちになっている自分がいた。

「小沢君、その案件もうそろそろ依頼者指定の4週間になるやろ。特に変な動きがなければ今日の現場解除したら報告にするで」

「了解しました」

もう今日で美樹ちゃんともお別れか…
わかってはいたけど、やっぱり名残惜しいもんだな…
そんな風に思いながら、調査最終日の彼女の背中を見送った。

調査の報告の際には、お母様の方が探偵事務所にお越しになり、僕も立ち会った。上品な雰囲気のお母様だった。

「ひとまず娘が東京で変なことに手をだしていなくて安心しました。それと、娘とも仲良くして頂き、どうもありがとうございました。笑」

「とんでもございません、僕としても貴重な経験をすることができました」

こうして、この案件は終了となった。

その数日後
美樹ちゃんからLINEがきた。

「先輩最近ちゃんと大学来てますか?単位落としちゃいますよ~笑」

「悪いけど、僕はもう大学には行かない」

「え!!??なんでですか!!??」

「それは言えない。ごめん」

「え?え??」

「短い間だったけどありがと、元気でね」

「えなんで?なんで?そんなの嫌ですよ!!」

僕はLINEを閉じた。

だが数時間後に続けてこんなLINEがきた。

「私、先輩のことが好きなんです。今度お台場を案内してくれるって言ってたじゃないですか…だから、一度だけでいいからデートしてくれませんか?もう大学には行かないって、先輩にも複雑な理由があると思うので、それは絶対聞きませんから…お願いです」

彼女の僕への気持ちには若干気付いてはいたが、正直に白状すれば、僕も美樹ちゃんに惹かれていた。あの天真爛漫な笑顔と素直な性格の彼女に魅了されない男なんていないはずだ。それに、彼女のおっぱいは小さかった。(※小沢は貧乳の女の子が大好きなのだ)

【探偵業の業務の適正化に関する法律】第10条により、探偵は調査対象者に決して正体を明かしてはならない。でも僕が大学に行かなくなった理由を彼女が聞いてこないのであれば、隠し通せるかもしれない…僕は葛藤に苦しんでいた。しかし、彼女のおっぱいは小さかった。(※小沢は貧乳の女の子が大好きなのだ)

「わかった。お台場へ行こう」

忘れもしないあの日。
美樹ちゃんとは、ゆりかもめのお台場海浜公園駅の改札口で待ち合わせをした。

「お久しぶりです!今日はお世話になります」

「こちらこそ。ありがとね」

「へへへ、大学の外で先輩に会うの照れます」

「僕もだよ。じゃ行こうか」

「はい!」

相変わらず美樹ちゃんは明るく、可愛らしかった。

東京ジョイポリスへ行った。まだ都会に慣れていない彼女は、最新のデジタル技術を駆使した屋内施設にとても感動し「すごい!すごい!」と子供のように元気にはしゃいで楽しそうにしていた。僕が大学に行かなくなった理由を聞いてくるそぶりもなく、色んな話をしながらアトラクションをめぐった。

猫が大好きな話、親友の話、自転車に乗れない話、東京タワーに行きたい話、免許合宿の話、グラマシーニューヨークのチーズケーキの話、高校生の時にアルバイトしていたパスタ屋の話、未だに僕は覚えている。

「生き人形の間」という お化け屋敷に入った時だった。美樹ちゃんの方から急に手をつないできた。それも、いわゆる恋人つなぎだ。暗闇の廊下を歩く時も怖がりながらピッタリと僕に身体をくっつけてきた。やれやれ。僕は勃起した。お化け屋敷を出た後も、それからはずっと手をつないだままだった。しかしながら、僕も美樹ちゃんも、お互いにそれを指摘することはなかった。

ところで今になって、もう何年も前のことを思い出しながら、こんなにキモイ文章をブログに書いてる僕の気持ち、想像できます?どうみても異常性癖です、本当にありがとうございました。

ディナーにはbillsを予約していた。お台場の夜景の見える店内で、デザートのリコッタパンケーキを笑顔で頬張る彼女を眺めながら、僕は自分の気持ちを伝える決心をした。

なぁに…出会った時の関係が
探偵と対象者だっただけのことさ…
それなら墓場まで持っていけばいいんだ…

「あーあ!もう今日1日でもっと先輩のことが好きになっちゃいましたよ。だからこれからも先輩を独り占めさせてくださいね!」(←本当にこう言われたんだって!)

「あのさ、みきてぃ。話があるんだけど…」

「なんですか?」

「僕と付き合って欲しい」

「え…いきなりなんですか。笑」

「今、言わなきゃと思ったから」

「私…なんかでいいんですか?」

「みきてぃが、いいんだよ」

「先輩…それ本気で言ってます?」

「うん」

「あの…すっごく嬉しいです…」

「うん」

「でもちょっと考えさせてください」

「へ???」

「考えます」

「僕のこと好きなんだよね?」

「はい」

「僕を独り占めしたいんだよね?」

「はい」

「でも付き合うかは保留なの?」

「はい」

「えっ?」

「えっ?」

だめだもうあの時の感覚が蘇ってきてこれ以降は文章化できません。ここで終わりです。最終的に僕はみきてぃにフラれました。もうかれこれ10年近く経ちましたが真相は未だに不明です。諸説ありますが「みきてぃはタイムマシンで未来からやってきた僕の娘」という説が、現時点での最有力候補です。多分ちょっとどうかしてるんだと思う。だからこの物語はフィクションで全部僕の妄想ということにしておいてください、お願いします。
最後までお付き合い本当にどうもありがとうございました。