投稿者「探偵小沢」のアーカイブ

探偵は嘘をつく

誰しも「嘘つきの羊飼いの少年」という寓話を聞いた事があるだろう。

ある少年が羊の群れの番をしていて退屈になり、村人に向かって叫んだ「狼が襲ってきたぞ」。みんな助けに来たが、もちろん狼はいない。少年は「狼は逃げた」と言い、村人は彼の機転を褒めた。次の日も、その次の日も彼は嘘をついた。そして四日目に本当に狼が来た。少年は必死に助けを呼んだが、村人達は無視した。少年も羊の群れも 食べられてしまった。

この物語は【いつも嘘ばかりついてると、本当の事を言っても、誰も信じてくれなくなる】という教訓を示していると一般的には受け取られている。しかし僕から言わせればこの物語の教訓はこうだ。

 

同じ嘘を二回つくな

 

探偵は嘘をつくプロとも言える。あなたは【嘘】というものについて果たしてどれだけ考えた事があるだろうか?探偵スキルのみならず、現代社会を生き抜く上で必要なのが「嘘をつく能力」である。ここでは嘘の素晴らしさを、僕は伝えたい。なんせ世の中は 嘘でいっぱいだ。

悲しいかな、現代日本の教育シーンにおいては一般的に「嘘をつくのは悪いことだ」という教育が行われている。にも関わらず、嘘をついた事のない人間など存在しないのは実に皮肉である。物心のついた子供は、さも当然の様に学校や家庭で嘘のつき方をどんどん学んでいくのだ。あなただって最初は下手な嘘しかつけなかったはずである、しかしそれが今ではどうでしょう、立派に嘘をつける大人になっているではありませんか!

―それはなぜか?

人とのコミュニケーションにおいて、嘘は必要不可欠なものだからだ。

異論はもちろん認める。だが道徳やモラルの観点はさておき、嘘の要素を完全に排除してしまうと、人間関係というのは かえってぎこちないものになってしまうのである。

 

そもそも人が嘘をつく時には 何かしらの理由が存在する。極論を言えば、自分の目的達成に向けて他者を誘導するために人は嘘をつく。もちろん無自覚に嘘をついている人も多いが、嘘の本質は「誘導」だ。嘘をつくのが上手いという事は、誘導力があるという事なのだ。

人間関係を円滑にする白い嘘(white lie)と呼ばれるものがある。例えば『お世辞』。本心では思ってもいない事を発言するわけだから、嘘をついていると言えるだろう。嘘も追従も世渡りだ。あとは『誇張』や『大げさな表現』『オーバーリアクション』も、一種の嘘のエッセンスが含まれている。「相手をいい気持ちにさせたい」「話を盛り上げたい」、そして「相手との関係性を良くしたい」という意図がある時に、人は少なからずの嘘を並べているのかもしれない。

また、聞き手が聞いた瞬間に、本当の事ではないと判ること —明らかな嘘— を聞かせて、それが嘘だという共通認識を確認し合って楽しむことがある。一緒に笑うため、すなわち『ユーモアとしての嘘』だ。欧米人がこの手のジョークを多用するのは周知の事実だが、ナンパ師もよく使うテクニックである。とどのつまり、嘘(ユーモア)が無い人間との会話は概して退屈なものになってしまうのである。

これは少し拡大した解釈にもなるが、『頭の中で思っている事を言わないでいる』のだって嘘と捉えることもできるのではないだろうか。「本音と建て前」という言葉が存在するように、人は社会生活において本音と建て前を使い分ける。多かれ少なかれ、人間というのは「真実と嘘」という二面性を常にはらんだ状態でコミュニケーションを行うのだ。嘘つきは泥棒のはじまりではなく、社会生活のはじまりだ。

セックスだって、男女の織り成す演技にまみれた嘘と虚構なのかもしれない。これはなんかカッコつけて言ってみたかっただけで深い意味はまるで無い、ごめん。

小説やドラマ、ゲームにアニメや漫画だって実際には存在しない架空のものであり、フィクション(嘘の物語)だ。紀元前からの演劇をはじめ、古より人間の娯楽においてフィクションが必要不可欠であったことは言うまでもないだろう。なかでもSF(Science Fiction)の中には創造上のテクノロジーだったものが、いつしか現実のものになっていたりするのだから感慨深い。嘘から出た実である。

 

ところで、僕は探偵として今まで数多くの不倫の現場を目撃してきた。そして依頼者に対して不倫の報告をしてきた。信頼を裏切られ、絶望して、涙を流して崩れ落ちる人を目の当たりにしてきた。

そこでみなさんにオススメの嘘がある。
そう、『相手の為の嘘』だ。

この『相手の為の嘘』を上手につけるようになれたら、人を傷つけにくくなる。大切な人を守る事ができる。だからこそ、嘘をつく技術を磨け。その嘘をつき通せ。後ろめたさや罪悪感をおくびにも出さずに嘘をつけ。嘘をつくのが罪ではない、それを嘘だと感づかれる事こそが罪だ。パートナーを傷つけるな、墓場まで持っていけ。僕から言わせれば、探偵に浮気調査を依頼されている時点で、既に二流だ。

 

さてここまで嘘の必要性について語ってきたが、絶対についてはいけない嘘もある。それは『自分に対しての嘘』だ。嘘をつくことが上手くなってくると、自分に対しても嘘をつくのがだんだん上手くなってくる。だが、自分の信念や気持ちに対しては決して嘘をついて(裏切って)はいけない。自分を騙してはいけないのだ。自分を信じることができなくなると、自分という人間を乗りこなせなくなってしまう。

僕はかつて、嘘の技術を磨き続けるあまり、自分すらも無自覚に騙すことに成功していた。嘘をつく事による誘導は非常に強力だが、その反面リスキーでもある。失った自分への信頼を取り戻すのには、とても長い時間がかかった。

 

っていうか、大学の履修の必修科目に「嘘のつき方」を追加すべきだと思う。あとは「ミスチル」と「スマブラ」と「SNS映えするカフェで異性の存在をほのめかす写真の撮り方」も追加してくれ。そしたら僕もフル単とれたはずだ。

 

探偵は嘘をつくプロとも言える。あなたは【嘘】というものについて果たしてどれだけ考えた事があるだろうか?この文章やブログも、まやかしなのかもしれない。

私の不倫を撮ってください


『32歳の女です、小沢さんに依頼がしたくてDMしました。私は現在ダブル不倫をしてるんですが、不倫相手と私が仲良くホテルに入っていくシーンを、不倫相手に気づかれないように撮ってくれませんか?』

なんじゃそりゃ?笑

すかさず「え、そんな証拠を撮って一体何に使うんですか?」と尋ねたところ、不倫相手と別れる為に使いたいそうな。

なんでも依頼者さん自身はもう関係を解消したいと思ってるのに、不倫相手の男が別れてくれないらしい。で、その不倫相手の男も なんかちょっとヤバイ奴で、別れようみたいな雰囲気を出すと「そんなの嫌だ!俺がこんなに君を好きなのにどうして別れたいんだ!不倫は共犯だ!俺を裏切るな!絶対バレないから大丈夫だ!」とか言うタイプの奴らしいんですよね。なかなか穏便に別れられなそうだから、外部的な理由が欲しいんですって。

つまり、不倫の証拠を僕が撮って、依頼者さんにそれを渡して。あたかもその証拠が【依頼者さんの旦那さんが探偵に依頼して手に入れた証拠】のようにみせかけて、不倫相手の男に証拠写真をチラ見させると。そんでもって「私はあなたとの関係を続けていきたかったけど、旦那に証拠を撮られてバレてしまった…でも旦那は、私がもう今後あなたに会わないなら、あなたにも慰謝料請求はしないで穏便にしてやるって言われたの…だからお願い…私と別れて(泣)」みたいな交渉をしたいんだそうです。

面白いでしょ?w
探偵には、こういう依頼も来たりするんです。

私立探偵のいいところは、依頼者を選べることだ。

僕が依頼を受けるか受けないかを決める判断基準としては、いかに依頼者さんに感情移入できるかどうかが普段は重要になってくるんだけど、それとは別に、内容が面白い依頼だったりすると、全然儲からなくても受けてしまうことが多い。(仕事選べよ)

じゃあいいですよ、ってんで。不倫相手との密会場所である、都内某シティホテルで依頼者さんとアポを取った。不倫が行われる当日にね。

フロントで挨拶してから、まず依頼者さんがホテルにチェックインして、そのまま一緒に部屋について行った。高層階の眺めの良いオシャレな部屋だった。その中で、探偵の重要事項説明をして契約書にサインを貰う。次第になんだか変な気持ちになってくる。密室で人妻と2人っきりで、自分はいったい何をやってるんだとw

そしてつい言ってしまった「依頼者さん、あれですよね?この後、不倫相手と一緒にこの部屋に来て…あのベットの上で…その…行われるわけですよね…?」

「はい、そうです…これが最後の情事になると思います///」
頬を赤らめながら言う依頼者(人妻)

なんて色っぽいんだ。僕は勃起した。

で、それから部屋の外に出て、このあとの動きについて
「不倫相手とはこの店の前で待ち合わせをします」

とか

「ここから手をつなぎながら、この角度でホテルに入ってきます」

とか

「エレベーター降りて、このタイミングでいきなりキスをします」

みたいな感じで、良い映像が撮れるように、事前に打ち合わせを行った。普段僕らがやってる浮気調査では有り得ないことだ。まさに勝利を約束された試合。完全な出来レースである。

台本の打ち合わせが終わると「じゃあ、あとはよろしくお願いします」と言われ、不倫相手と待ち合わせする依頼者さんを遠くから張り込んだ。

それからはまぁ、台本通りに動く依頼者さんと不倫相手を、もうこれでもかっていう位にベストなアングルから舐めるように不貞の映像を撮りましたよね。もはや探偵というよりかは、AV監督にでもなった気分だった。

そう、不倫カップルの前戯というのはホテルに入る前から既に始まっているのだ。

言うまでもなく、言い逃れのできないような不貞の映像がバッチリ撮れた。もとい、作品が完成した。それを依頼者さんに提出。その後、2週間くらい経ってからから「小沢さんありがとうございます!無事、穏便に別れることができました!」という連絡を頂いた。いやーよかったよかった。

探偵は不倫をしてる人にとっては天敵のような存在だが、時としてこんな風に不倫をしてる人の味方になることもあるのだ。

探偵としてのキャリアの終わりについて

最近よく、探偵としてのキャリアの終わりについて考える。

ところでね
今これを読んでくれている探偵でない方にお伝えしたいことがあるんです。
それは…

今日も現場に出ている全ての探偵は「自分はいつまで探偵を続けていくのだろう」という自問自答をしながら調査をしている、ということ。

意外かい?とはいえ、まぁ多くのサラリーマンもこの手の葛藤は常に抱えていることだろう。だが探偵という職業の場合はより深刻な問題となりがちだ。

「探偵として生きていく」
はそんなに簡単なことじゃない

それは
「探偵として生計を立てていくこと」と
「探偵でいる自分を受け入れ続けること」
という2つの問題を孕んでいるのだ。


「探偵として生計を立てていくこと」はフィジカル(肉体的)な問題
「探偵でいる自分を受け入れ続けること」はメンタル(精神的)な問題
ともいえるだろう。探偵は辞めたい時に辞められない。それを寝れない夜に言語化してみたよ。

  

探偵として生計を立てていくこと
~フィジカルな問題~

ご存知の通り、探偵という職業は潰しが利かない非常にニッチなものだ。

『人を尾行するのが得意です!』
『ラブホテルから出てくる瞬間のカップルを撮るのには自信があります!』
『変質者だと思われようが何時間でも同じところに立ってられます!』

という事故アピールをしてくる人間を、積極的に採用したがる面接官のいる会社はあまり多く存在しないだろう。

現代日本においては、一度探偵という仕事に就いてしまったら、いわゆる一般的なキャリアアップを重ねていく人生は望めない。確実に社会のレールからは外れてしまう。前職が探偵というだけで、お堅い企業は片っ端から書類選考ではじいてくるのだ。僕は探偵から足を洗った人間を腐るほど知っているわけだが、キャリアアップとしての転職に成功した人間は知る限りでは たった一人しか居ない。

そもそも探偵になる人のほとんどは、前職を持つ転職組だ。それも探偵という職業を選択してしまうくらいだから、よほどの変わり者であることは間違いないし、探偵という仕事に流れ着いたということは、それなりにスネに傷を抱えた人間であることに他ならない。まぁ僕は新卒で探偵になってしまったので、スネに傷は無いけど親のスネは齧りつくしたとも言えるだろう(全然上手いこと言えてねーぞw)。

こうして探偵となった人間は、心機一転、調査業一本で生きていこうと決意して、現場で探偵としての腕を磨いていく。忙しさの中にもやり甲斐を見出し、身を粉にして対象者を追い続ける。メキメキと尾行の技術も上がり、様々な探偵スキルを習得していく。その過程は人生の第二の青春ともいえる楽しい日々かもしれない。だが探偵は生涯を通じて現場に出続けることは叶わない。気がつけばあっという間に歳を取り、現場でのパフォーマンスがどんどんと落ちていく。探偵の現場での寿命は短いのだ。

それなら現場を引退してクライアント対応をしたりする営業職に就けばいいじゃないか、と思うかもしれないが そう簡単にはいかない。そもそも現場一筋で影の仕事をしてきた職人探偵にとって、営業は真逆の仕事内容で、キャリアアップというよりかは完全なキャリアチェンジなのだ。それに探偵業の営業はかなり独特なものだし、往々にしてそのポジションは埋まっている。またここでは深く語らないが、探偵という仕事はクライアント対応の方が、肉体的にも精神的にも現場仕事よりもキツイものだと僕は認識している。

こうして体力だけでなく精神の衰え、労働時間、経済的な理由、家庭の事情、社会的体裁や世間体、そういうものが積み重なり、探偵は必然的に引退を考えざるを得なくなる。これがフィジカル(肉体的)な問題だ。

探偵でいる自分を受け入れ続けること
~メンタルな問題~

探偵は身体が勝手に動き出す。つい人を観察してしまう。眼球の動きが明らかに一般人と違う。カップルが視界に入ると今日セックスをするタイミングがいつかを予測してしまう。夜の住宅地を歩いていると無意識に足音を殺してしまう。東西南北を常に意識しながら生活してしまう。電話が鳴ったらどの名前で名乗ればいいか考えてしまう。自分のプライベートを犠牲にすることにある種の快感を感じてしまう。ようは職業病がキモいのだこれらは身体に染み付いてしまった習慣で、元に戻すのは至難の業だ。あとは街を歩いていても、至る所に思い出が存在している。

「対象者が立ち寄った店」
「対象者が乗換えに使った駅」
「対象者の勤務先」
「対象者の自宅」
「対象者を見失ったデパート」
「2日間張り込んだラブホテル」
「依頼者と契約したカフェ」

10年以上探偵をしていると、そんな場所ばかりが増えていく。そしてふと近くを通った瞬間に、辛かった思い出と共に当時の自分の記憶が蘇ってくる。そういう時に「探偵である」ということに対して、どこか誇りを持っている自分を再認識する。今まで潜り抜けてきた様々な苦難が、探偵としてのアイデンティティをより強固にしていくのだ。

遠回りな例えばかりになってしまったが、何が言いたいかというと【探偵は探偵である自分を誇りに思ってる】ということだ。プライドともいえるだろう。他人のセックスを証明して生活をしている社会不適合者という自分を愛しているのだ。(←文字にすると酷い肩書だな)

これは素晴らしいことでもあるが、同時に厄介な問題でもある。探偵を辞めたい時に辞めるというのはそれほどまでに難しい。これがメンタル(精神的)な問題だ。

  

まとめると、この2つの問題が欠け合わさることによって
「探偵を辞めたくないのに辞めないといけない」という状況と
「探偵を辞めたいのに辞められない」という状況に陥ってしまうのだ。

 

こうしてズルズルと探偵というものが、人生を侵食していく。

だいたい世の探偵たちはメンタルな問題をクリアにしてそのキャリアを終えるのだろうと思う。ようするに探偵への執着を捨てるということだ。探偵としての自分にピリオドを打って見切りをつけ、新しい人生を歩んでいく。探偵からの卒業だ。

逆にフィジカルな理由で「もう俺には探偵を仕事にしていくのは無理だ…」と痛感(挫折)してキャリアを捨てるとなると、その引き際は前者にくらべて格段に難しい。それは次のアイデンティティがまだ確立できていないからだ。今更自分が探偵以外の仕事なんてできるはずがないという恐怖もあるだろうが、それ以上に、自分が探偵でなくなることに恐怖を覚えるのである。高齢の探偵ほど悲惨だ。

 

先日、ひょんなことから同業他社の探偵さんとお話する機会があって『日本の探偵業界で小沢さんのことを知らない探偵はもういないと思いますよ』と言われて背筋が伸びる(凍る)思いがした。確かに謙遜するのも不自然なくらい、今や探偵業界においては有名になってしまったことは事実だろう。ゆえに多くの同業者もこの文書を読んでいることと思うのですが、頷きすぎて首がもげてはいませんか?

 

思うに僕にとって探偵というのはアイデンティティそのものなのだと思う。「探偵小沢」じゃなくて、ただの「小沢」にはもう戻れない。自分の場合、探偵を自身のアイデンティティの中にかなり肯定的に組み込んでしまっているし、それが占める割合も相当大きい。あの日、何者にもなれないで燻っていた自分を、肯定たらしめるものが探偵だった。今日までそれを糧として生きてきた自分から、探偵という要素を上手に抜き取ることができたとして、後には一体何が残るだろうか?新しい自分を肯定することができるのだろうか?もはやそこには貧乳好きの変態しか残らない。


探偵は人の秘密を覗く仕事だ。しかし(これはくさすぎて言うまい言うまいと思っていたが、)僕は<探偵>を通じて自分自身の人生を覗いているのだ。(言わせんな。)それに人生を懸けた大きな野望も実は持っている。

探偵小沢の肩書は厳密に言うと探偵というよりかは「コンサルタント探偵」だ。探偵の助けが不要な人間に対しても意見を述べたり影響を与える諮問探偵が、どんなキャリアの終わり方をするのかどうかを、ぜひあなたのその目で見届けて欲しい。

探偵と調査対象者との禁断の恋

これは全部フィクションなんだけど
僕が調査対象者と禁断の恋をしてしまった話をしよう。

あれはもう随分と昔、僕が駆け出しの探偵だった頃…

僕と上司の目の前に座っている依頼者がこう言った。

「うちの娘を尾行して欲しいんです」

なんでも、大学入学を機に上京して一人暮らしを始めた娘さんの素行が気になってしょうがないらしい。ダンディな雰囲気のお父様だった。

「できれば、娘の身に何か危険があった場合は、助けてあげて欲しいのです。常識的な範囲で構いませんので…」

「探偵はボディーガードではありませんので身辺警護はちょっと…それに、もう18歳にもなる年頃の娘の行動を親が詮索するのもどうかと…」という台詞を僕は飲み込んだ。

「承知しました」と上司。

承知したのかよ。

調査委任契約書を交わし、二人で依頼者のお見送りをした。
そして僕の隣で上司のMさんがニヤニヤしながら言った。

「さぁ小沢くん、来週から君は大学生や」

対象者は18歳の女の子。名前は美樹ちゃん(仮名)だ。長野県上田市にある田舎町から東京に上京してきたばかりの大学1年生。大学近くのアパートに一人暮らしをしている。いわゆるおのぼりさんで、服装も地味で大きな眼鏡をしている。通っているのは そこそこ大きな大学で、外部の人間である僕でも容易に出入りが可能だった。彼女が取っている授業は大人数用の教室が多かったので、ちゃっかりと一緒の教室で講義を聞いていた。まさか2×歳にもなって、また大学に通うことになるとは。僕も身なりを大学生らしくして、クラッチバックとかを持ち歩いて、もう完全に大学生に溶け込んでいた(と思いたい)。

対象者の人となりというのは、尾行をしながら観察していると、にじみ出てくるものである。彼女は、バスでもお年寄りに席を譲る優しい子で、目線はよく甘いものに向けられていてスイーツに目がなく、所作も丁寧で育ちの良さが垣間見れる女の子だった。

こうも毎日、朝に家を出てから帰宅するまでの尾行を続けていると、一方的に親近感を覚えてくるものである。彼女に対して親心というか、いつしか妹を見守るような感覚を抱いていた。

大学の外では、ローリーズファームで1時間かけて試着をして服を選んだり、美容院から出てくると  うっすら髪に茶色のカラーが入っていたり、眼鏡がコンタクトレンズになったりと、田舎町の出身である彼女が、大学生デビューで少しづつあか抜けていく様子を影ながら尾行・監視していた。調査開始から2週間が経っていた。

そんなある日、事件は起きた。
もはや自分が探偵だということを半分忘れながら学食でクリームメンチ定食を食べていた時だ、彼女が急に僕の隣の席にやって来て、なんと話しかけてきたのだ!

「あの、授業よく被ってますよね…?」

マズい…
流石に連日の調査で彼女の視界に入り過ぎてしまっていたか…?

探偵は原則、調査対象者との直接の接触は避けるものだが、不可抗力で会話をしてしまう事は極稀にある。その際は自分が探偵である事は絶対に隠さなければならない。だから、ここはなんとか自然な対応で誤魔化しながら やり過ごすしかないと僕は思った。

「あーたしかに君、見覚えあるかも。1年生?」

「はい!美樹っていいます!」

「僕は小沢、経済学部の3年」

「じゃあ先輩ですね!あの…私まだ大学でお友達があまり居ないんです。だからもしよかったらお友達になってくれませんか?色々と教えて欲しいです、履修とかサークルとか」

「い、いいよ…」

「やった!よろしくお願いします」

これはとんでもないことになってしまった。
すぐに上司へ電話して事態の報告をした。

「ははは、小沢君やるやん!対象者と友達になっちゃう探偵なんて滅多におらんよ?」

「やめてください、何とかやり過ごせましたけどマジで冷や汗ものでしたよ…交代要員呼べます?」

「う~ん…今うちの班の案件立て込んどるからなぁ…小沢君で続行や」

「いやいや無理ですよ!認知されちゃってるし!」

「まぁ不貞調査だったらあかんけど、小沢君のは素行調査やし、まぁ歳も近いし友達なら探偵業法的にも大丈夫やろ」

「いやそれはそうかもしれないですけど…面が割れているので大学の外での尾行の難易度はめっちゃ上がりますよ…」

「小沢君ならイケるで。それよか彼女の恋人になればええやん。そしたら24時間の監視が可能やw」

「ちょwww」

こうして僕は彼女の調査を続行することになった。学内では時々彼女と一緒に授業を受けたり、そのまま学食でご飯を食べたりした。当時は調査対象者と直接話す経験なんてあまりなかったので内心ドキドキしていたが、身を隠す必要がないというのは、なかなかどうして悪くないものだった。

「先輩ってなんか不思議な雰囲気な人ですよね、妙に落ち着いてるっていうか…あと観察眼鋭いですよね!おしゃべりしてても色々と見透かされてる感じ」

…そりゃそうだ。
依頼者からの情報や大学の外での行動も全て知っているのだから…

「そんなことないよ、美樹ちゃんが単純なだけだよ」

「またそうやって!ひどい!」

「ごめんごめん」

「どうせ私は単純ですよ~」

「じゃこのマウントレーニアあげるから許してよ、好きでしょ?笑」

「好きです!えーいいんですか?許します!」

美樹ちゃんは美人とは言えないまでも、いつも明るく可愛らしい笑顔で、すぐに懐いてきて愛嬌のある子だった。次第に僕は学内で彼女に会うのが楽しみになっていた。失われた青春を取り戻したような気持ちになっている自分がいた。

「小沢君、その案件もうそろそろ依頼者指定の4週間になるやろ。特に変な動きがなければ今日の現場解除したら報告にするで」

「了解しました」

もう今日で美樹ちゃんともお別れか…
わかってはいたけど、やっぱり名残惜しいもんだな…
そんな風に思いながら、調査最終日の彼女の背中を見送った。

調査の報告の際には、お母様の方が探偵事務所にお越しになり、僕も立ち会った。上品な雰囲気のお母様だった。

「ひとまず娘が東京で変なことに手をだしていなくて安心しました。それと、娘とも仲良くして頂き、どうもありがとうございました。笑」

「とんでもございません、僕としても貴重な経験をすることができました」

こうして、この案件は終了となった。

その数日後
美樹ちゃんからLINEがきた。

「先輩最近ちゃんと大学来てますか?単位落としちゃいますよ~笑」

「悪いけど、僕はもう大学には行かない」

「え!!??なんでですか!!??」

「それは言えない。ごめん」

「え?え??」

「短い間だったけどありがと、元気でね」

「えなんで?なんで?そんなの嫌ですよ!!」

僕はLINEを閉じた。

だが数時間後に続けてこんなLINEがきた。

「私、先輩のことが好きなんです。今度お台場を案内してくれるって言ってたじゃないですか…だから、一度だけでいいからデートしてくれませんか?もう大学には行かないって、先輩にも複雑な理由があると思うので、それは絶対聞きませんから…お願いです」

彼女の僕への気持ちには若干気付いてはいたが、正直に白状すれば、僕も美樹ちゃんに惹かれていた。あの天真爛漫な笑顔と素直な性格の彼女に魅了されない男なんていないはずだ。それに、彼女のおっぱいは小さかった。(※小沢は貧乳の女の子が大好きなのだ)

【探偵業の業務の適正化に関する法律】第10条により、探偵は調査対象者に決して正体を明かしてはならない。でも僕が大学に行かなくなった理由を彼女が聞いてこないのであれば、隠し通せるかもしれない…僕は葛藤に苦しんでいた。しかし、彼女のおっぱいは小さかった。(※小沢は貧乳の女の子が大好きなのだ)

「わかった。お台場へ行こう」

忘れもしないあの日。
美樹ちゃんとは、ゆりかもめのお台場海浜公園駅の改札口で待ち合わせをした。

「お久しぶりです!今日はお世話になります」

「こちらこそ。ありがとね」

「へへへ、大学の外で先輩に会うの照れます」

「僕もだよ。じゃ行こうか」

「はい!」

相変わらず美樹ちゃんは明るく、可愛らしかった。

東京ジョイポリスへ行った。まだ都会に慣れていない彼女は、最新のデジタル技術を駆使した屋内施設にとても感動し「すごい!すごい!」と子供のように元気にはしゃいで楽しそうにしていた。僕が大学に行かなくなった理由を聞いてくるそぶりもなく、色んな話をしながらアトラクションをめぐった。

猫が大好きな話、親友の話、自転車に乗れない話、東京タワーに行きたい話、免許合宿の話、グラマシーニューヨークのチーズケーキの話、高校生の時にアルバイトしていたパスタ屋の話、未だに僕は覚えている。

「生き人形の間」という お化け屋敷に入った時だった。美樹ちゃんの方から急に手をつないできた。それも、いわゆる恋人つなぎだ。暗闇の廊下を歩く時も怖がりながらピッタリと僕に身体をくっつけてきた。やれやれ。僕は勃起した。お化け屋敷を出た後も、それからはずっと手をつないだままだった。しかしながら、僕も美樹ちゃんも、お互いにそれを指摘することはなかった。

ところで今になって、もう何年も前のことを思い出しながら、こんなにキモイ文章をブログに書いてる僕の気持ち、想像できます?どうみても異常性癖です、本当にありがとうございました。

ディナーにはbillsを予約していた。お台場の夜景の見える店内で、デザートのリコッタパンケーキを笑顔で頬張る彼女を眺めながら、僕は自分の気持ちを伝える決心をした。

なぁに…出会った時の関係が
探偵と対象者だっただけのことさ…
それなら墓場まで持っていけばいいんだ…

「あーあ!もう今日1日でもっと先輩のことが好きになっちゃいましたよ。だからこれからも先輩を独り占めさせてくださいね!」(←本当にこう言われたんだって!)

「あのさ、みきてぃ。話があるんだけど…」

「なんですか?」

「僕と付き合って欲しい」

「え…いきなりなんですか。笑」

「今、言わなきゃと思ったから」

「私…なんかでいいんですか?」

「みきてぃが、いいんだよ」

「先輩…それ本気で言ってます?」

「うん」

「あの…すっごく嬉しいです…」

「うん」

「でもちょっと考えさせてください」

「へ???」

「考えます」

「僕のこと好きなんだよね?」

「はい」

「僕を独り占めしたいんだよね?」

「はい」

「でも付き合うかは保留なの?」

「はい」

「えっ?」

「えっ?」

だめだもうあの時の感覚が蘇ってきてこれ以降は文章化できません。ここで終わりです。最終的に僕はみきてぃにフラれました。もうかれこれ10年近く経ちましたが真相は未だに不明です。諸説ありますが「みきてぃはタイムマシンで未来からやってきた僕の娘」という説が、現時点での最有力候補です。多分ちょっとどうかしてるんだと思う。だからこの物語はフィクションで全部僕の妄想ということにしておいてください、お願いします。
最後までお付き合い本当にどうもありがとうございました。